妊娠報告をされた時の声のかけ方は、果たして「おめでとう」なのか?
妊娠の報告を受けた時、世間では当たり前のように「おめでとう」と言う。
私も今まではずっとそうだった。
しかし、最近疑問に思うことがある。
果たして「おめでとう」という言葉が返答に一番ふさわしいのだろうかと。
これは、私にまだ子供がいないからひがんでいるわけでも、喜んでいないというわけでもない。
なぜそう思ったかというと、子供がなかなか出来ないという自分自身の状況の中で、「子供を授かり、無事に生まれる」ということがとても奇跡なことであると強く感じているからだ。
普通に子供を望んですぐに授かれる人もいれば、望んでいなくても授かる人もいる。
どんな場合も新しい命を授かるということはとても神秘的なことだと思う。
命は奇跡の連続なのだ。
私が学生時代の頃に遡るが、非常にショッキングな出来事があった。
当時、私はアパレル店でアルバイトをしていた。アパレル店に働こうというのは、高校生の時から決めていた。ありきたりの理由だが、あの華やかな世界で働いてみたいと思っていたのだ。
しかし、現実は女性の職場ともあり、独特な厳しい面もあったのは確かだ。しかし、その中でも私はやりがいを感じていた。
とある日の事。
本社の※VMD担当の方(Aさん)が店舗に久しぶりに訪れた。
すると、どうだろうか。誰がどう見てもお腹がかなり大きく妊娠していたのがわかる。
Aさんは無口であまり愛想のない女性で有名だった。当時、私もなんとなく近寄り難く、怖かったのを覚えている。
ただ、Aさんの妊娠している姿を見て「おめでとうございます!」と声をかけたくなった私は、レジ付近にいた店長のもとへ駆け寄り、コソコソ話で確認をした。
私「Aさんって妊娠されていますよね。。?」
店長「そうだよ。もうすぐ産休に入るんだって♪」
私「うわー!なんておめでたいんだろう!!ちょっと挨拶行ってきまーす♪」
その後、私はすぐにAさんのところに行き「おめでとうございます」と言いに行った。
すると、彼女は満面の笑みで「ありがとう!」と返してくれた。
いつも怖そうに思っていたAさんのその笑顔は既にお母さんだった。私は、ただただ嬉しかった。
しかし、その2ヶ月後くらいの出来事だった。
Aさんは、再び店舗に訪れ、平然と高い脚立に登り、レイアウトをガツガツ変え始めているではないか。その姿に私は正直本当に驚いた。
彼女のお腹はペタンコだったのだ。
あれから2ヶ月という期間の仕事復帰なんてあり得るのだろうか?
いや、まさかそんなはずはない・・・。
明らかに違和感を感じた私は何も声をかけることも出来ずにいた。
すると、バックヤードからヒソヒソ声が聞こえてきた。
バイトB「Aさんって、もう出産されたんですか?まさかもう仕事復帰だなんて、凄いですね~」
社員C「違う違う!!流産しちゃったんだって。。」
バイトB「えっ!!そうなんですか。安定期とっくに過ぎてるのにそんなことって。」
社員C「私達もビックリしたし、悲しかった・・・。他の店舗のアルバイトの子で【Aさん、おめでとうごございます~。もう産まれたんですか?男の子と女の子どっちだったんですか?】って聞いた子がいるの。そういうことだから今はそっとしておいてあげて。とにかく彼女が今一番辛いだろうから。」
彼女は残念ながら無事に出産することが出来なかったのだ。
妊娠することも奇跡だが、無事に出産ということもまた奇跡なのだとその時私は知ることになった。
では、実際に年齢別の流産確率と妊娠週数による流産確率を複合グラフで見てみることにしよう。
▼年齢別の流産確率と妊娠週数による流産確率
上記のグラフを見て、驚かれた方もいるのではないだろうか。
このグラフを見ての通り、35歳以上であれば10人に2人以上、40歳以上であれば10人に4人以上の方が流産を経験していることになる。
この数字から、私達が気づかないだけで、計り知れない悲しい思いや、苦しい思いをされている方が実は沢山いるのだとわかる。
私達は、妊娠したら普通に産まれてくるというのが大多数だと感じてしまい、あたかもそれが当たり前のように錯覚してしまいがちだ。
しかし、今の私は全くそうは思わない。
私のように望んでもなかなか授かることが出来ない人だって多くいる中で、まずは妊娠するという奇跡。そして無事に産まれてきてくれるという奇跡。その間にもいくつもいくつも奇跡が重なった結果であり、それは実に尊いことだと思うからだ。
だから私は妊娠報告を受けた時、非常に嬉しい気持ちでいっぱいになるものの、最近では「おめでとう」という言葉が果たして適切な言葉なのかとためらうことがある。
実際に妊娠初期で、周囲に報告して、盛大にお祝いをしてもらった後に、流産を経験した20代女性もいる。流産後もその事実を知らない知人達から「おめでとう」という沢山の言葉が降り注いだのだ。その時には既に「おめでとう」という言葉が、鋭い剣のように彼女の心を苦しめたという。
妊娠するということは、まず一つの奇跡が起こったに過ぎず、その奇跡の道のりにはまだまだ続きがあることを、私達はあまり知らない。
なんの言葉が適切なのかという答えは未だに出ていないが、私達が妊娠を知ったとき、「無理しないでね」「体調は大丈夫?」と体を労わる言葉をかけてあげると同時に、実際に妊婦さんがしんどい時には、きちんと周りが支えたり、ケアしてあげることが必要なのだと思う。
知人や親族の妊娠報告には「おめでとう」という言葉をかけながら、電車で優先席を妊婦さんに譲らずに、寝たふりやスマホをいじっているようでは、本末転倒なのだ。